人材育成において、どのような方法が効果的なのでしょうか?インプットを行う研修だけではなく、実践的な経験やフィードバックも必要だということは、多くの方が感じていると思います。
しかし、具体的にどのような割合でそれらを組み合わせるべきなのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
この記事では、人材育成の方法に関する有名な理論である「ロミンガーの法則」について、その概要や背景、ポイントを解説します。また、DX人材育成において、ロミンガーの法則をどのように活かすことができるのかについても紹介します。
ロミンガーの法則を知ることで、人材育成の効果をより高めることができます。ぜひ、この記事を参考にして、人材育成の参考にしてみてください。
ロミンガーの「70:20:10の法則」とは?

現在DX人材育成を行う上で、経験学習やブレンディットラーニングといった概念が活用されていますが、ロミンガーの法則はそういった概念の根本となる考え方です。
この章では、ロミンガーの法則の概要や法則が注目される背景について解説します。
ロミンガーの「70:20:10の法則」の概要
ロミンガーの70:20:10法則とは、人材育成において、学習効果の発揮に必要な要素の割合を示した法則です。
この法則によると、人材育成においては、以下のような割合で学習要素を組み合わせることが望ましいとされています。
- 70%:実際の仕事やプロジェクトなどでの経験
- 20%:上司や先輩、同僚などからのフィードバックや助言
- 10%:研修や書籍などでのインプット
この法則は、1970年代にアメリカの心理学者であるマイケル・ロミンガーが、成功したマネージャーのキャリアパスを調査した結果、導かれた法則です。
ロミンガーは、成功したマネージャーは、仕事での経験や人間関係から多くのことを学んでいることを発見し、この考え方は企業や組織における人材育成の分野で広く受け入れられるようになりました。
ロミンガーの70:20:10の法則が注目される背景
ロミンガーの法則は、人材育成の方法に関する有名な理論ですが、近年、特に注目されています。その理由の一つは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴う、人材育成のニーズの高まりです。
DXを成功させるためには、デジタル技術に精通しただけでなく、ビジネスや社会の課題を解決するための創造性や柔軟性を持った人材が必要です。しかし、現状では、DX人材の不足が深刻な問題となっています。
そして、DX人材に必要なスキルは、デジタルツールやプログラミングなど、実際に対象者が経験を積むことで目に見えて学習が促進されるスキルが多いため、この法則が注目されているのです。
[参考リンク-IPAの提唱するデジタルスキル標準とは!?概要からITパスポートとの違いまで徹底解説します!]
ロミンガーの70:20:10の法則で抑えるべきポイント

人材育成においてロミンガーの法則が有効ですが、この法則を意識して活用するために、抑えるべきポイントが3つあります。
この章ではそんなロミンガーの法則で抑えるべきポイントについて解説します。
経験の重要性
ロミンガーの法則の最も重要なポイントは、経験の重要性です。
ロミンガーの法則によると、学習効果の70%は、実際の仕事やプロジェクトなどでの経験から得られるとされています。
経験を通して、自分の強みや弱み、興味や関心、目標や価値観などを発見し、自己理解を深めることができ、経験を通して、新しい知識やスキル、考え方や行動パターンなどを習得し、自己改善を図ることができます。
この”経験”の中で、どのように学習をすればよいかについては、経験学習という概念でまとめられています。
[参考リンク-経験学習とは!?経験学習モデルや具体的な研修内容、DX人材育成への活用について解説!]
3つのバランスを保つことで効果が最大化する
ロミンガーの法則の2つ目の重要なポイントは、3つのバランスを保つことです。
ロミンガーの法則によると、学習効果の20%は、上司や先輩、同僚などからのフィードバックや助言から得られるとされています。
フィードバックや助言は、経験を振り返り、客観的に評価することで、自分の成長に気づくことができ、経験に対する気づきや学びを深めることで、自分の行動や思考を改善することができます。
残りの10%は、研修や書籍などでのインプットから得られるとされています。
インプットは、経験に必要な知識やスキル、考え方や行動パターンなどを提供することで、自分の能力を高めることができ、インプットは、経験に対する理解や視野を広げることで、自分の学びを促進することができるのです。
ロミンガーの法則は、経験、フィードバック、インプットの3つの要素をバランスよく組み合わせることで、学習効果を最大化することができるという理論ですが、この3つの要素の割合は、必ずしも70:20:10という固定的なものではありません。
人材のレベルや目標、状況に応じて、柔軟に調整し、3つの要素のバランスを保ちながら、人材の成長をサポートすることが重要です。
主体性を持たせることが大事
ロミンガーの法則のもう一つのポイントは、主体性を持たせることが大事だということです。
ロミンガーの法則は、人材育成において、経験やフィードバック、インプットの3つの要素を組み合わせることが効果的だということを示していますが、それらの要素をどのように提供するかも重要です。
対象者にとって、自分で選択したり、関与したり、参加したりすることができると、学習意欲やモチベーションが高まります。そのため、主体性を持たせることが、人材育成の効果を高めることにつながります。
例えば、経験においては、対象者に自分の興味や関心に沿った仕事やプロジェクトを選ばせたり、自分で目標や計画を立てさせたり、自己評価や振り返りをさせたりすることができます。
フィードバックにおいては、自分でフィードバックを求めさせたり、フィードバックを受け入れやすい環境を作ったり、フィードバックを活用する方法を教えたりすることができます。
インプットにおいては、人材に自分の学びたい内容や方法を選ばせたり、自分で学習計画を立てさせたり、学習成果を発表させたりすることができます。
しかし、ここで気をつけたいのは、主体性を持たせることが、対象者に学習をすることを任せっきりにすることではないということです。
しっかりと事務局側・提供側が目的と意図を持って、対象者に寄り添いながら、対象者に主体性を持たせるようにしましょう。
[参考リンク-人材育成の効果を最大化するためのペタゴジーとは!?具体例も交えながらわかりやすく解説します!]
ロミンガーの70:20:10の法則をDX人材育成に取り入れるべきポイント

この章では70:20:10の法則をDX人材育成にどのように取り入れるかについて解説します。
DXを学ぶだけではなく、経験・体感させることが重要
DX人材育成において、ロミンガーの法則を取り入れるべきポイントの1つ目は、DXを学ぶだけではなく、経験・体感させることが重要だということです。
DXを成功させるためには、デジタル技術に精通しただけでなく、ビジネスや社会の課題を解決するための創造性や柔軟性を持ったDX人材が必要であり、DXに関する知識やスキルをインプットするだけでは、DX人材としての能力は十分に発揮されません。
DX人材育成においては、ロミンガーの法則に従って、経験・体感の割合を高めることが効果的です。
経験・体感を通して、DXに関する知識やスキルを実践的に活用することができ、それによってDXに関する理解や視野を広げたり、DXを自分ごと化・腹落ちすることができます。
具体的にどんな経験をさせるかについては、「70:20:10の法則とDX人材育成においての課題」の章で解説します。
[参考リンク-企業研修で活用すべきアクティブラーニングとは!?メリット・デメリットからDX人材育成での具体例まで徹底解説!]
フィードバックの重要性
DX人材育成において、ロミンガーの法則を取り入れるべきポイントのもう2つ目は、フィードバックが重要だということです。
フィードバックを通して、DXに関する経験や体感の成果や課題を振り返り、客観的に評価することができます。
また、フィードバックを通して、DXに関する経験や体感の気づきや学びを深めることができ、得た学びから組織や業務の改善・改革の方向性を見出すことができます。
具体的には、DXに関する仕事やプロジェクトの成果や課題をフィードバックしたり、学習状況や研修後にフィードバックをすることが挙げられます。
しかし、ここで注意したいのは、フィードバックをすることは、人材に批判や否定をすることではないということです。重要なのは、人材にDXの挑戦や変化に対する姿勢や意欲を育てることです。
[参考リンク-ビジネスやDXで必須のフィードバックの種類やフレームワークについてわかりやすく解説します!]
インプット研修ばかりでは成長しない
DX人材育成において、ロミンガーの法則を取り入れるべきポイントの3つ目は、インプット研修ばかりでは成長しないということです。
DXに関する知識やスキルをインプットするだけでは、本質的に必要な実行もできなければ、実行の中で得るはずの経験も得ることができません。
DX人材育成においては、アウトプット前提でのインプットをすることが重要です。
そうすることで、自然と70:20:10の割合に近づきます。
また、アウトプットを前提としたインプットを設計することで、対象者である受講者側からしても、目的を理解し、腹落ちをした状態でインプットに取り組めるメリットも生まれます。
[参考リンク-ブレンディットラーニングとは!?DX人材育成への活用やメリットについて解説!]
70:20:10の法則とDX人材育成においての課題と解決策

ここまでで、70:20:10の法則をDX人材育成に取り入れるメリットなどを解説しましたが、取り入れる上での課題も存在します。
この章ではそんな70:20:10をDX人材育成に取り入れる上での課題とその解決策を3つ解説します。
時間の確保が難しい
課題の1つ目が、時間の確保が難しいということです。
DX人材育成においては、経験やフィードバック、インプットの3つの要素をバランスよく組み合わせることが効果的ですが、これらの要素を提供するには、それなりの時間も必要です。
特に、経験やフィードバックは、仕事やプロジェクトの実行や振り返りに時間がかかります。
これらの時間を確保することは、日々の業務に追われる人材や組織にとって、なかなか難しいことです。
時間の確保が難しいという課題を解決するためには、以下のような方法があります。
DX人材育成の必要性の理解を促す
組織にとって、人材育成の重要性や意義を認識させたり、人材育成の目標や計画を明確にすることで、人材育成の時間を優先的にスケジュールに組み込むようにすることがしやすくなります。
特に、部門長レベルに理解をしていただくことで、現業の中での時間の確保がしやすくなるでしょう。
[参考リンク-「腹落ち感」を形成するセンスメイキング理論とは!?組織でDXを推進していくための文化の醸成に活用しよう!]
いつでもインプットができる環境を作る
EラーニングやLMSを導入することで、自発的学びをいつでも、どこでも可能にすることで、インプットがしやすい環境を作ることが重要です。
学ぶ意欲がある人材には、積極的にインプットの場を提供するとよいでしょう。
フィードバックができる人材がいない
2つ目の課題はフィードバックができる人材がいないということです。
フィードバックや助言を提供するには、それなりの能力や経験が必要です。
特に、DXに関するフィードバックや助言を提供するには、DXに関する知識やスキル、理解や視野、創造性や柔軟性が必要です。
フィードバックができる人材がいないという課題を解決するためには、以下のような方法があります。
フィードバックできる人材を育成する
DXのプロジェクトや、学習に対してフィードバックができるような人材を少数でいいので育成する方法です。
DX推進部門や、情報システム部門にこの役割の人材を配置することで、各現場でのDXに対してフィードバックする体制を作ることができます。
フィードバックの方法を確立する
人材を育成するだけでなく、フィードバックをする方法をフレームワークなどを使って確立することで、ある程度の知識や知見を持った人材がいれば、フィードバックの文化がなりたつ状態を作ることができます。
フィードバックできる人材をアウトソーシングする
フィードバックができる人材がいなかったり、リソースが足りなかったりする場合は、フィードバックができる人材をアウトソーシングすることも可能です。
どんな経験をさせれば良いかわからない
3つ目の課題は、どんな経験をさせれば良いかわからないということです。
ロミンガーの法則によると、人材育成においては、経験が学習効果の70%を占めるとされていますが、どんな経験をさせれば良いかは社内の状況やDX戦略によって大きく異なります。
人材に対してどのような学習プログラムを組んでいくかを考える方法としてはラーニングエクスペリエンスデザインを取り入れることが有効です。
ラーニングエクスペリエンスデザインとは、受講者に学習をさせるだけでなく、学習から経験までの全体をデザイン(設計)するという考え方です。
アウトプットを前提としたインプットや、アウトプットとしての経験をどのような体験にするか、など検討する概念のため、70:20:10の法則を抑える上で効果的な考え方です。
詳細については下記リンクから確認ください。
参考リンク-ラーニングエクスペリエンスデザインとは!?研修効果を最大化するための理論をDXの人材育成への活用も併せて解説!]
まとめ
この記事では、人材育成の方法に関する有名な理論である「ロミンガーの法則」について、その概要や背景、ポイントを解説しました。また、最近注目されているDX人材育成において、ロミンガーの法則をどのように活かすことができるのか、具体的な方法や課題についても紹介しました。
ラーニングエクスペリエンスデザインを基点とし、市民開発の土台を作るための学習カリキュラムについては、下記リンクのお役立ち資料からダウンロードできますので、ぜひチェックしてみてください。
あなたのDX推進に幸あれ!