DXなどでの組織変革は、時代の変化に対応するために必要なことですが、変革に対して抵抗する人や部門がいたり、変革の効果が見えなかったり、変革の目的や意義が伝わらなかったりと、なかなかスムーズに進まないことが多いですよね。
そこで、この記事では、組織変革への抵抗の11パターンと、それぞれの原因や特徴を解説します。
この記事を読むと、組織変革への抵抗を理解し、変革を成功させるためのヒントを得ることができます。
組織変革のプロジェクトリーダーやメンバー、経営者やマネージャーの方はぜひ参考にしてください。
変革への抵抗とは

スティーブンロビンスの定義
変革への抵抗の定義として、よく引用されるのが、組織行動学の権威であるスティーブンロビンスのものです。
彼は、変革への抵抗を「個人やグループが、組織の変革に対して、意図的にまたは無意識に、直接的にまたは間接的に、行動的にまたは言語的に、反対すること」と定義しています。
組織変革における抵抗の考え方
組織変革とは、組織の構造や文化、戦略やシステム、プロセスや人事などを、外部環境や内部要因に応じて、計画的にまたは非計画的に変更することです。
組織変革は、組織の競争力や生産性、効率性やイノベーション、顧客満足度や従業員満足度などを向上させるために行われます。
組織変革における抵抗の考え方には、二つの観点があります。
一つは、抵抗は変革の障害であり、排除すべきものという観点です。
この観点では、抵抗は変革の目的や方向に合わないものとして、否定的に捉えられます。
もう一つは、抵抗は変革のフィードバックであり、活用すべきものという観点です。
この観点では、抵抗は変革の問題点や改善点を示すものとして、肯定的に捉えられます。
変革への抵抗が注目される理由
近年、変革への抵抗が注目される理由の一つに、DX(デジタルトランスフォーメーション)があります。
DXは、組織にとって、競争力や成長力を高めるための必須の取り組みですが、同時に、組織や個人に大きな変化を求めるものでもあります。
DXにおいて、変革への抵抗は、変革の成功を左右する重要な要素です。
DXの変革における抵抗のパターンや原因を理解し、適切に対応することが、DXの推進にとって不可欠です。
[参考リンク-経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とは!?DXとの関連や対策方法までわかりやすく解説します!]
変革への抵抗の11パターン

個人からの抵抗
個人からの抵抗とは、個人の心理的な要因や認知的な要因によって、変革に対して抵抗することです。
個人からの抵抗には、以下の5つのパターンがあります。
安全
安全とは、個人が自分の身体や心理、社会的な安全を脅かされると感じることです。
変革によって、自分のポジションや役割、スキルや能力が不要になったり、低下したりすると感じると、安全を失うことへの恐怖から抵抗します。
例えば、変革によって自分の仕事がなくなる可能性があると感じると、変革に反対したり、変革に関する情報を隠したりすることがあります。
習慣
習慣とは、変革によって、自分の習慣が変わってしまうのを嫌うことです。
例えば、変革によって自分の業務の流れや方法が変わると感じると、変革に適応することを拒否したり、変革に関する情報を無視したりすることがあります。
習慣は、人間の心理的な安定感や効率性を高めるものですが、同時に、変化に対する柔軟性や創造性を低下させるものでもあるのです。
経済的要因
経済的要因とは、個人が自分の収入や報酬、福利厚生などに影響を受けると感じることです。
変革によって、自分の経済的な利益が減少したり、不確実になったりすると感じると、抵抗します。
例えば、変革によって自分の業務が効率化されると、減給や解雇の可能性があると感じ、変革に協力しなかったり、変革に関する情報を歪めたりすることがあります。
未知に対する不安
未知に対する不安とは、個人が自分の将来や変革の結果について不確かさや不明確さを感じることです。
変革によって、自分の状況や環境がどのように変わるのか、変革が成功するのか失敗するのか、自分に何が求められるのかなどが分からないと感じると、抵抗します。
例えば、変革によって自分の役割や責任が変わると、自分がそれに対応できるか不安になったり、変革に関する情報を求めたりすることがあります。
選択的情報処理
選択的情報処理とは、個人が自分の信念や価値観に合わない情報を無視したり、否定したりすることです。
変革によって、自分の認知や判断が間違っていることや、自分の行動が変わる必要があることを示す情報があると、その情報を受け取らない、という抵抗します。
例えば、変革に関する情報を信じなかったり、批判したりすることがあります。
組織からの抵抗
組織からの抵抗とは、組織の構造や文化、システムやプロセスなどによって、変革に対して発生する抵抗することです。
組織からの抵抗には、以下の6つのパターンがあります。
構造的習慣
構造的習慣とは、組織が長年にわたって築き上げたルールや規則、手続きや方針などで、変革によって、これが変ってしまうのを嫌うことがあたります。
例えば、変革によって組織の階層や部門、役職や権限が変わると感じると、変革に協力しなかったり、変革に関する情報を遅らせたりすることがあります。
構造的習慣は、組織の安定性や一貫性を高めるものですが、同時に、変化に対する柔軟性や創造性を低下させるものでもあります。
変革の限られた焦点
変革の限られた焦点とは、組織が変革の対象や範囲を限定的に捉えることで、変革によって、変化が起きるポイントが一部だけにとどまり、組織の全体的なパフォーマンスや戦略が改善されることを見落とすことがこれにあたります。
例えば、変革によって自分の部門や業務に直接的なメリットがないと感じると、変革に関心を持たなかったり、変革に関する情報を共有しなかったりすることがあり、先進的な部署とそうでない部署が二極化してしまったりすることが挙げられます。
変革の限られた焦点は、組織の効率性や専門性を高めるものですが、同時に、組織の協調性や総合性を低下させるものでもあります。
グループの慣性
グループの慣性とは、組織内のグループが持つ規範や価値観、信念や行動パターンなどで、変革によって、グループのアイデンティティやコミュニティが変わるのを嫌うことがこれにあたります。
例えば、変革によってグループのメンバーやリーダー、役割や関係が変わることがわかると、変革に適応することを拒否したり、変革に関する情報を内部にとどめて隠したりすることが挙げられます。
グループの慣性は、組織の結束力や忠誠心を高めるものですが、同時に、変化に対する開放性や多様性を低下させるものでもあります。
専門性への脅威
専門性への脅威とは、組織内の専門家やプロフェッショナルが、自分の知識や技能、地位や権威が軽視されたり、置き換えられたりすると感じることです。
変革によって、自分達の専門性が不要になったり、低下したりすると感じると、抵抗が発生します。
例えば、変革によって自分の業務がデジタル化されたり、外部の専門家が参加したりすると、変革に反対したり、変革に関する情報を歪めたりすることがあります。
既存の権力関係に対する脅威
既存の権力関係に対する脅威とは、組織内の権力者や影響力のあるグループが、自分の権力や影響力が減少したり、移動したりすると感じることです。
変革によって、自分の権力や影響力が他の人やグループに奪われたり、分散されたりすると感じると、抵抗が発生します。
例えば、変革によって自分の部門や役職、権限や責任が変わると、変革に協力しなかったり、変革に関する情報を遅らせたりすることがあります。
既存の資源配分
既存の資源配分とは、組織内の資源や報酬、評価などが、現在の状況や業績に基づいて配分されていることです。
変革によって、自分の資源や報酬、評価が減少したり、不公平になったりすると感じると、抵抗が発生します。
例えば、変革によって自分の部門や業務に割り当てられる予算や人員、報酬や評価が変わると、変革に反対したり、変革に関する情報を隠したりすることがあります。
DXにおける抵抗の11パターンと対策

習慣-慣れ親しんだ業務が変化することへの抵抗
慣れ親しんだ現業が変化することへの抵抗とは、DXによって、個人の業務の内容や方法、扱うツールやシステムなどが変化することに対して発生する抵抗です。
DXでは、組織のプロセスや業務をデジタル化することで、効率化や自動化、最適化を図ることができます。
しかし、それに伴って、個人は、自分の業務の流れや手順、操作や入力などを変える必要があります。
例えば、営業にSFAツールを導入しようとしたときに、今まで自分のオフラインにあるエクセルで案件管理をしていたのに、新しいツールを導入してからネット環境にわざわざ繋いで、データの入力も煩雑になってしまうから自分はエクセルのまま管理してしまう。なんてことがこれにあたります。
これには、しっかりと習慣を変える必要性や意義を伝え、協力してもらうことを働きかける必要があります。
[個人]安全-自分のミッションや業務の存在価値の淘汰への不安
自分のミッションや業務の存在価値の淘汰への不安とは、DXによって生み出された変化で、個人のミッションや業務の存在価値が低下したり、消滅してしまうことの不安です。
DXは、組織のビジネスモデルや戦略を変革することで、新たな価値や競争力を創出することができます。しかし、それに伴って、自分のミッションや業務が組織の目標や方向に合わなくなったり、デジタル技術やデータに置き換えられたりすることもあります。
例えば、バックオフィスのデータを転記する業務をRPAに置き換えることで、業務を効率化しようとしたときに、その業務をメインとして従事していたメンバーから発生する抵抗です。
これには、置き換えられたり、効率化されたあと、どのようなことにリソースを費やして欲しいか、ということをあらかじめ定めておき、伝えることが必要です。
[個人]経済的要因-業務効率化による減給への不安
業務効率化による減給への不安とは、DXによって起きた変革で、残業時間が減ったり、業務時間が少なくなることで、個人の収入や報酬、福利厚生などが減少することへの不安です。
DXは、組織のコストや時間を削減することで、利益や生産性を向上させることができますが、それに伴って、自分の業務が効率化されることで、減給や解雇の可能性があると感じる人もいます。
これには、業務効率化で削減したコストやリソースをどのように分配するのかと、リソースを削減した効果がどの程度個人へ影響を与えるのかをあらかじめ算出し、伝えておくことが有効です。
[個人]未知に対する不安-DXという新しい概念に対しての漠然とした不安
DXという新しい概念に対しての漠然とした不安とは、DXという言葉自体がいろんな意味を含んでいたり、さまざまな事例がありすぎることで、DXというもの自体がわからなかったり、高尚に捉えすぎて漠然とした不安や懸念を感じている状態を指します。
DXは、本質を捉えることができないと、AIや生成AI、RPAやノーコードなど、さまざまなテクノロジーやツールを使うため、わかりにくい側面があります。
それに伴って、個人は、自分の状況や環境がどのように変わるのか、DXが成功するのか失敗するのか、自分に何が求められるのかなどが分からないと感じてしまいます。
これには、自社にとってのDXをしっかりと定義し、その本質をわかりやすく表現して伝えることが効果的です。これにより、自社にとってのDXとはなにかを理解できるため、DXというものが漠然としたものではなくなり、不安を抱きづらくなります。
[個人]選択的情報処理-DXに関する情報発信が受け入れられない
DXに関する情報発信が受け入れられないとは、DXが個人の信念や価値観に合わないと思ってしまい、DXに関する情報を無視したり、歪めたり、否定したりしてしまうことです。
これは、本質的にはそれぞれがなぜ自身の信念や価値観に合わないのかによって対応を変えるべきですが、リソースの問題もあるため、いきなりそれを行うのは難しいでしょう。
また、根本の問題として、情報発信の量が不足している可能性もあります。
そのため、まず情報の伝え方の選択肢を増やし、DXの情報にふれることを増やすことが重要です。
具体的には、社内のイントラネットや社内コミュニケーションだけでなく、社内にDXについてのポスターを貼り出したり、または集合研修やEラーニングで半強制的にDXのコンセプトを伝えるための動画を見せたりすることができます。
[組織]構造的習慣-過去の成功体験や組織風土への固執
過去の成功体験や組織風土への固執とは、DXによって、組織の構造や文化が変化することに対して過去の成功体験や組織風土に固執することで抵抗することです。
DXは、組織の構造や文化をデジタルに適応させることで、組織の変革を促進することができますが、それに伴って、組織は、過去の成功体験や組織風土に固執することがあります。
組織は、DXによって自分のルールや規則、手続きや方針が変わることを嫌い、DXに協力しなかったり、DXに関する取り組みに参加しなかったり、わざと遅らせたりすることがあります。
たとえば、今までの事業の成功を今の業務と無理やりに紐付け、「これまでこれで成功してきたんだから変える必要なんてない」といった考えを持つことがこれにあたります。
[組織]変革の限られた焦点-システムやツールの効果が限定的で、現場で活用されない
システムやツールの効果が限定的で、現場で活用されないとは、DXによって、組織のシステムやツールに起きる変化が一部でしか起きないことを指します。
DXは、組織のシステムやツールをデジタルに最適化することで、組織のパフォーマンスや戦略を改善することができますが、一方で、個別最適になりすぎて、他の業務や部署に対して活用ができず、全体最適が進まないことがこれにあたります。
これには、ある程度個別最適が進んだときに、全体最適を見据えた見直しをすることが効果的です。
例えば、隣で作られたアプリケーションをそのまま流用して使えないかと考えたり、隣の部門との連携をAPIでできないか考えたりすることが有効です。
[組織]グループの慣性-DX人材を少数育成しても現場でDXが起こらない
DX人材を少数育成しても現場でDXが起こらない とは、DXによって、組織内のグループのアイデンティティやコミュニティが変化することへの抵抗のことを指します。
DX人材を選抜して育成したときに、現場に戻ったときにDXが起こらないのはこの抵抗のためです。
これには、変革に必要なリーダーの人数をあらかじめ設定して育成することと、現場にある程度のリテラシーを持たせることが効果的です。
[参考リンク-経済産業省が提唱するDXリテラシー標準とは!?策定された背景やITパスポートとの関係まで徹底解説!]
[組織]専門性への脅威-DXにより一部の業務や部門が置き換えられてしまう
DXにより、一部の業務や部門が置き換えられてしまうとは、DXによって、組織内の専門性が低下したり、消滅したりすることへの抵抗です。
DXは、組織内の業務や部門をデジタル化することで、効率化や自動化、最適化を図ることができまが、それに伴って、組織は、自分の業務や部門がDXにより置き換えられてしまうことを恐れます。
これには、その部門に対して、置き換えた後にどんなミッションを与えるかをあらかじめ協議し、合意しておくことが必要です。
[組織]既存の権力関係に対する脅威-DX推進部門とのパワーバランスの難しさ
DX推進部門とのパワーバランスの難しさとは、DXによって、組織内の権力関係が変化することへの抵抗です。
DXは、組織内にDX推進部門を設置したり、DX人材を配置したりすることで、組織の変革を推進することができますが、それに伴って、組織は、DX推進部門やDX人材との権力や影響力のバランスに対してマイナスに感じたり、懸念をいただりすることがあります。
例えば、売上を多く挙げている事業部門に対して、新設されたDX推進部門が変革のアドバイスやヒアリングをしたときに、相手にしてもらえなかったり、邪険にされたりすることがあります。
これには、DX推進部門が会社にとって非常に大きな役割を担っていることを示すことが必要です。
具体的には、DX推進部門を社長直下の部門にしたり、各部門への依頼の時にトップマネジメント層からの依頼を送ったりすることができます。
[組織]既存の資源配分-効率化によって生まれたリソースや人材の再配置の難しさ
効率化によって生まれたリソースや人材の再配置の難しさとは、DXによって、生まれたリソースを再配置しようとした時に、どの部門に配置し直すかを決定することと、それを合意することが難しいことを指します。
DXは、組織のコストや時間を削減することで、利益や生産性を向上させることができますが、それに伴って、組織は、効率化によって生まれたリソースや人材の再配置をしなくてはなりません。
これをしっかりと定めないと、DXによって自分の部門や業務に割り当てられる予算や人員、報酬や評価が変わることを恐れ、DXに反対をする人が組織の中に生まれてしまいます。
まとめ
この記事では、組織変革への抵抗の11パターンと、それぞれの原因や特徴を解説しました。また、DXという最新の変革の動きにおいて、どのように抵抗を活用したり、対策をしたりするかもご紹介しました。
組織変革への抵抗は、変革の障害であると同時に、変革に対するフィードバックでもあります。
抵抗のパターンや原因を理解し、適切に対応することが、変革を成功させるための重要なステップです。
DXにおいても、抵抗を無視したり、排除したりするのではなく、抵抗を受け入れたり、活用したりすることが、DXの推進にとって不可欠です。
ぜひこの記事を参考にして、DX推進を成功に導いてください。
あなたのDX推進に幸あれ!