昨今ではDX人材という文脈の中でデジタルスキル標準という言葉を聞くことが非常に増えてきました。
この記事では、そんな経済産業省が提唱する「デジタルスキル標準」についてご紹介します。
デジタルスキル標準が策定された背景や内包されている2つの標準について徹底的に解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
デジタルスキル標準とは

デジタルスキル標準の概要
デジタルスキル標準は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で不可欠な知識やスキル・マインドセットなどを定義したものです。
この標準は、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の二つの標準を内包しており、それぞれが異なる対象と目的を持っています。
DXリテラシー標準は、経営層を含むすべてのビジネスパーソンがDXに関連する能力とスキルを身につけるための基準です。DXを自分ごと化するために必要なスキルが23項目で整理されています。
DX推進スキル標準は、DXを実際に推進する役割を担う人材に焦点を当て、そのために必要なスキルセットを5つの人材類型で整理したものです。
これは、デジタル技術を駆使するために必要な人材がどのようなものか、という枠組みと捉えることができます。
デジタルスキル標準が制定された背景
日本におけるデジタル人材不足
デジタルスキル標準が制定された背景の一つ目の要素は日本におけるデジタル人材不足です。
経済産業省が刊行するDX白書では、海外と日本におけるDX推進人材の充足度の統計が採られており、その結果では、日本にて DX 推進人材が不足していると感じている割合が 80 % 以上となっており、米国と比較してもかなり高いことが分かります。

「日本では(中略)DXを推進する人材の「量」の不足が進んでいる。」
と記載されているように、現在日本企業においてデジタル人材の育成や採用が急務となっており、育成や採用をするべき人材を定義したのがデジタルスキル標準なのです。
[参考リンク-経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とは!?DXとの関連や対策方法までわかりやすく解説します!]
DX推進における人材の重要性
デジタルスキル標準が制定された背景の二つ目の要素はDX推進における人材の重要性です。
DXを成功させるためには、適切なスキルを持った人材が不可欠であり、その人材像と必要なスキルがDXリテラシー標準と推進スキル標準で定義されています。
DXリテラシー標準においては、経営層を含む全てのビジネスパーソンがDXリテラシーを高め、DXに対する正しい理解とマインドセットを醸成し、DXに対しての素養を全社員が持つことが重要でとされています。
さらに、リテラシー向上だけでなく、DXを戦略的に進めるためには、専門性を持ったDX推進人材の育成が不可欠であり、企業は全社員がDX推進を自分ごとと捉え、DXリテラシーを身につけることを目指すと同時に、DXを具体的に進めるための専門人材の育成にも注力する必要があるとされており、この専門人材を定義したのがDX推進スキル標準です。
デジタルスキル標準とITスキル標準の違い
デジタルスキル標準とITスキル標準は、それぞれ異なる目的と対象を持つ重要な指標です。
2002年に経済産業省によって策定されたITスキル標準(ITSS)は、ITサービス提供に必要なスキルや知識を体系化したもので、主にITエンジニアの能力評価を目的としています。
これに対し、デジタルスキル標準は、すべてのビジネスパーソンがDXを理解し推進するための基礎知識やスキルを習得することを目的としており、職種を限定せず、すべてのビジネスパーソンに対して適用されています。
ITスキル標準は、高度なIT人材の育成に焦点を当て、特定の技術職に関連する専門性を高めることを目指していますが、一方で、デジタルスキル標準は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の基本を全ビジネスパーソンが理解し、活用することを促進するために策定されています。
この違いは、両者が対象とする人材の範囲と、それぞれが重視するスキルの内容において明確に表れています。
DXリテラシー標準

DXリテラシー標準の概要
DXリテラシー標準は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために、全ビジネスパーソンが身につけるべき能力とスキルを体系化した指針です。
経済産業省によって策定されたこの標準は、DXを単なる流行語ではなく、個々のビジネスパーソンが自らの行動変革として捉え、実践に移すための基盤とするために策定されました。
DXリテラシー標準は、なぜDXが必要なのか、DXを推進しないとどのような問題が生じるのか、そしてDXをどのように活用していくのかという点について、理解をするために必要なスキルがDXリテラシー標準は、「マインド・スタンス」、「Why(DXの背景)」、「What(DXで活用されるデータ・技術)」、「How(データ・技術の利活用)」の4つのカテゴリと、23個のスキル項目で整理されています。
これらのスキルを身につけることにより、身の回りの課題に気づき、解決に向けた行動を促すことができ、いわゆるDXの自分ごと化が進みます。
DXリテラシー標準の4つのカテゴリ
DXリテラシー標準で定義されているカテゴリとその項目の一部を抜粋した表が以下になります。
マインド・スタンス | ・変化への適用 ・コラボレーション ・顧客・ユーザーへの共感 ・常識にとらわれない発想 ・反復的なアプローチ ・柔軟な意思決定 ・事実に基づく判断 | 各自が置かれた環境において 目指すべき具体的な行動や影響 |
Why | ・社会の変化 ・顧客価値の変化 ・競争環境の変化 | ・社会・産業の変化に関するキーワード (Society5.0、データ駆動型社会 等) ・顧客・ユーザーの行動変化と変化への 対応 ・デジタル技術の活用による競争環境変 化の具体的事例 |
What | ・データ ・社会におけるデータ ・データを読む、説明する ・データを扱う、判断する ・デジタル技術 ・AI、クラウド ・ハードウェア・ソフトウェア ・ネットワーク | ・データ ・データの種類、活用 ・分析手法、分析結果の可視化 ・デジタル技術 ・AI を作るための手法・技術 ・クラウドの仕組み ・ネットワークの仕組み |
How | ・活用方法、事例 ・活用事例 ・ツール活用 ・留意点 ・セキュリティ ・モラル ・コンプライアンス | ・活用方法、事例 ・事業活動におけるデータ・デジタル技術の活用事例 ・ノーコード・ローコードツールの基礎知識 ・留意点 ・個人情報の定義と個人情報に関する法律・留意事項… |
上記のように、それぞれのカテゴリにおいて必要なスキルが細かく明確化されています。
DXリテラシー標準とITパスポートの関係
経済産業省の資料では、DXリテラシー標準とITパスポートや諸資格の関連性を以下のように体系化しています。

これは、ITパスポートやG検定よりも前段階の知識としてDXリテラシーが必要ということを示唆しており、その前段階の知識というのが、マインド・スタンスとWhyの一部であるという見解です。
ゆえに、G検定やITパスポートに関して学んでもらう前に、DXの必要性やDXに向き合うための考え方や姿勢を保つことが重要ということになります。
[参考リンク-経済産業省が提唱するDXリテラシー標準とは!?策定された背景やITパスポートとの関係まで徹底解説!]
DX推進スキル標準

DX推進スキル標準の概要
DX推進スキル標準は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するために必要な人材の役割とスキルを体系的に示したガイドラインです。
経済産業省が策定したこの標準は、DXを推進する人材が持つべき知識やスキルを明確にし、それらを育成するための仕組みと連携させることで、リスキリングの推進や実践的な学びの場の提供、そして能力やスキルの可視化を目指しています。
DX推進スキル標準は、DXリテラシー標準に基づいた知識を前提としながら、それを一歩進めた専門的なスキルセットを5つの人材類型と49項目の共通スキル項目で整理しています。
DXリテラシーの向上は、DX推進に向けた行動を促す第一歩ですが、実際のDX推進には、より専門的な知識が求められます。
この標準により、ビジネスパーソンはDXの理論だけでなく、実践における具体的なスキルを身につけることができ、組織全体のDX推進力を高めることが可能になります。
DX推進スキル標準の5つの人材類型の概略
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトは、DXによって実現したい目的を設定し、その目的の達成を牽引できる人材とされています。
巷では、DXリーダー人材や、DX牽引人材と呼ばれていることもあります。
目標を実現するために、ビジネスモデルやプロセス、ITなどの多様な手段を用いた構造、すなわち「アーキテクチャ」の設計が求めらることから、「ビジネスアーキテクト」と呼ばれています。
データサイエンティスト
データサイエンティストは「企業や組織のDXにおいて不可欠なデータの活用領域を中心にDXの推進を担う」人材とされています。
経済産業省が定義するデータサイエンティストとは、「データの分析にとどまらず、データを活用したビジネス戦略の検討から、データの収集の方法や仕組みの検討、データ分析を行うための環境の設計・構築・運用に至るまで、幅広い業務を担う」とされており、単にPythonで分析モデルが作成できたりする人材とは異なります。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアとは「新たな製品・サービスの創出や業務の変革を、企画・構想段階から形のあるものへと具体化していく」人材とされています。
また、ソフトウェアエンジニアは社外に向けてシステム開発をする人だけではなく、社内の業務システム等の開発をする役割も含んでいます。
デザイナー
デザイナーとは、「ビジネスそのものの変革を、ビジネスの視点だけでなく顧客・ユーザーの視点を起点として実現する人材」とされています。
構想、実装、仮説検証、導入後の効果検証等で顧客視点をもってサービスやシステムを設計できることがで必要とされており、また、顧客視点というものは単にクライアントやサービス提供先だけでなく、社内の業務システムの観点では、社内の従業員に対してもデザイナーの観点が必要とされています。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、社内外に展開するデジタル技術にセキュリティの安全性を担保する役割のことを指します。
5つの人材類型のなかで唯一、人称ではなく役割を指しています。
DXを推進する事業会社においてセキュリティ対策を担う人材は、現実には他業務(組織のリスクマネジメントやデジタル基盤運用等)との兼務で担当する可能性が高いことを踏まえ、認証ではなく役割として定義されており、多様な職種の人に求められる役割となっています。
DX推進スキル標準の人材類型とロール
DX推進スキル標準では、5つの人材類型をさらに15個のロールで分類しています。
人材類型 | ロール | DX推進において担う責任 |
---|---|---|
ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト(新規事業開発) | 新しい事業、製品・サービスの目的を見出し、新しく定義した目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する |
ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化) | 既存の事業、製品・サービスの目的を見直し、再定義した目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する |
ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化) | 社内業務の課題解決の目的を定義し、その目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する |
デザイナー | サービスデザイナー | 社会、顧客・ユーザー、製品・サービス提供における社内外関係者の課題や行動から顧客価値を定義し製品・サービスの方針(コンセプト)を策定するとともに、それを継続的に実現するための仕組みのデザインを行う |
デザイナー | UX/UIデザイナー | バリュープロポジションに基づき製品・サービスの顧客・ユーザー体験を設計し、製品・サービスの情報設計や、機能、情報の配置、外観、動的要素のデザインを行う |
デザイナー | グラフィックデザイナー | ブランドのイメージを具現化し、ブランドとして統一感のあるデジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデザインを行う |
データサイエンティスト | データビジネスストラテジスト | 事業戦略に沿ったデータの活用戦略を考えるとともに、戦略の具体化や実現を主導し、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する |
データサイエンティスト | データサイエンスプロフェッショナル | データの処理や解析を通じて、顧客価値を拡大する業務の変革やビジネスの創出につながる有意義な知見を導出する |
データサイエンティスト | データエンジニア | 効果的なデータ分析環境の設計・実装・運用を通じて、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する |
ソフトウェアエンジニア | フロントエンドエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの機能のうち、主にインターフェース(クライアントサイド)の機能の実現に主たる責任を持つ |
ソフトウェアエンジニア | バックエンドエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの機能のうち、主にサーバサイドの機能の実現に主たる責任を持つ |
ソフトウェアエンジニア | クラウドエンジニア/SRE | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの開発・運用環境の最適化と信頼性の向上に責任を持つ |
ソフトウェアエンジニア | フィジカルコンピューティングエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの実現において、現実世界(物理領域)のデジタル化を担い、デバイスを含めたソフトウェア機能の実現に責任を持つ |
サイバーセキュリティ | サイバーセキュリティマネージャー | 顧客価値を拡大するビジネスの企画立案に際して、デジタル活用に伴うサイバーセキュリティリスクを検討・評価するとともに、その影響を抑制するための対策の管理・統制の主導を通じて、顧客価値の高いビジネスへの信頼感向上に貢献する |
サイバーセキュリティ | サイバーセキュリティエンジニア | 事業実施に伴うデジタル活用関連のサイバーセキュリティリスクを抑制するための対策の導入・保守・運用を通じて、顧客価値の高いビジネスの安定的な提供に貢献する |
これらは主管する業務の範囲や、求められる技量や、達成すべき目的によって分類されており、それぞれの人材類型を細分化したものです。
[参考リンク-経済産業省が提唱するDX推進スキル標準とは!?5つの人材類型や市民開発・ノーコードとの関連について徹底解説!]
DX推進人材の育成トレンド
現在多くの企業では、DX推進人材を基点としたDX人材育成を推進・検討しています。
そんな中で多くの企業で見られる動向としては以下のようなものがあります。
ビジネスアーキテクトの育成
多くの企業で見られる動向1つ目はビジネスアーキテクトの育成です。
先ほどのロールを見ていただいて感じた方も多いかもしれませんが、DX推進スキル標準を満たす人材を育成するのはかなりハードルが高いです。
そのため、優先順位をつけて育成をする企業がおおく、優先順位が高い人材類型がビジネスアーキテクトなのです。
自社のビジネスや業務に精通している人材がビジネスアーキテクトとなることで、本質的な現場の課題や顧客の課題の解決につながるためです。
その場合、ビジネスアーキテクト以外の人材類型に関しては、一旦アウトソーシングすることで対応することが多いです。
ノーコードによる市民開発の推進
多くの企業で見られる動向2つ目は市民開発の推進です。
ノーコードによる市民開発を取り入れるメリットとしては、DX推進スキル標準で求められるスキルの多くをノーコードを使うことでカバーできることが挙げられます。
例えば、ソフトウェアエンジニアに求められるスキルの代表格であるプログラミング言語の取得をする必要がなくなったり、サイバーセキュリティで必要なセキュリティの担保をノーコードツールによって担保することができます。
これらのメリットから、社内業務の高度化や新規事業開発において、ノーコードによる市民開発がトレンドとなっているのです。
[参考リンク-市民開発とは!?内製化を目指すための具体的な進め方やメリット・デメリットを徹底解説!]
[参考リンク-ノーコード人材・市民開発者の育成方法とは!?学習の入門からノーコード研修までおすすめのやり方を徹底解説します!]
まとめ
この記事では経済産業省が策定したデジタルスキル標準について、概要からトレンドまで徹底的に解説しました。
デジタルスキル標準は、DXを推進する上で必要なスキルを体系的に学ぶための重要な指針です。
この標準に沿って学ぶことで、個人も企業もデジタル化の波に乗り遅れることなく、持続可能な成長を達成することができるでしょう。
ぜひこの記事を参考にDX推進を成功に導いてください。
あなたのDX推進に幸あれ!