DXや市民開発といった組織変革は、時代の変化に対応するために必要なことですが、なかなかうまくいかないことも多いですよね。変革には、組織だけでなく、個人の意識や行動も変える必要がありますが、人は変化に抵抗する生き物です。どうすれば、組織や個人の変革を成功させることができるのでしょうか?この記事では、組織変革に有効なADKARモデルというフレームワークについて紹介します。市民開発に向けてどのようなことを取り組むべきかも理解することができますので、ぜひ最後までお読みくださいADKARモデルとは!?ADKARモデルの概要ADKARモデルとは、組織変革における個人の変革プロセスを表すフレームワークです。ADKARとは、以下の5つの要素の頭文字をとったものです。A: Aware(認識)D: Desire(願望)K: Knowledge(知識)A: Ability(能力)R: Reinforce(強化)ADKARモデルは、個人が変革を受け入れるためには、これらの5つの要素を順番に満たしていく必要があるという考え方です。つまり、変革の目的や必要性を認識し、変革に参加する意思や動機を持ち、変革に必要な知識やスキルを習得し、変革に対応する能力を発揮し、変革を維持するための支援やフィードバックを受けるというプロセスです。ADKARモデルは、組織変革の成功には、個人の変革が不可欠であるという視点に基づいています。組織は、個人の集合体であり、個人が変わらなければ、組織も変わらないということです。そのため、組織変革の計画や実行には、個人の変革の状況や課題を把握し、それに応じた対策や支援を行うことが重要です。ADKARモデルの歴史ADKARモデルは、ジェフリー・ハイアット氏によって考案されました。ハイアット氏は、アメリカの経営コンサルタントであり、変革管理の専門家です。ハイアット氏は、1980年代から1990年代にかけて、多くの企業や組織の変革プロジェクトに関わりました。その中で、変革の成功や失敗の要因を分析し、変革における個人の役割やプロセスに着目しました。そして、個人の変革プロセスを表すシンプルなモデルとして、ADKARモデルを作り出しました。ハイアット氏は、2003年に自らの会社であるProsci(プロサイ)を設立し、ADKARモデルを中心とした変革管理のメソッドやツールを提供しました。Prosciは、世界中の企業や組織に変革管理の教育やコンサルティングを行っており、ADKARモデルは、世界で最も広く使われている変革管理のフレームワークの一つとなっています。ハイアット氏は、ADKARモデルについて、以下のように語っています。「ADKARモデルは、変革の本質を捉えたものです。変革は、個人のレベルで起こるものです。個人が変わらなければ、組織も変わりません。ADKARモデルは、個人の変革プロセスを理解し、支援するためのツールです。ADKARモデルは、変革の目標や成果を明確にし、変革の障害や課題を特定し、変革の進捗や効果を測定し、変革に関わる人々のコミュニケーションや協力を促進します。ADKARモデルは、組織変革だけでなく、個人のキャリアやライフスタイルの変革にも応用できます。ADKARモデルは、変革を成功させるための鍵です。」ADKARモデルが注目される背景ADKARモデルは、2000年代に登場したものですが、近年、ますます注目されています。その背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)があります。DXとは、ご存知の通り、デジタル技術やデータを活用して、ビジネスや社会のあり方を変えることです。DXは、新しい価値やサービスを創出し、競争力や生産性を高めることができます。しかし、DXは、単に技術やシステムを導入するだけではなく、組織や個人の思考や行動も変える必要があり、組織変革の一つの形でもあります。ADKARモデルは、DXにおける個人の変革プロセスを理解し、支援することができるため、DXに対して非常に効果的なため、注目を浴びているのです。[参考リンク-チェンジマネジメントとは!?具体的な進め方やDXや市民開発への活用まで徹底解説!]ADKARモデルの5つのステップA-Aware(認識)A-Aware(認識)とは、変革の目的や必要性を理解することです。変革には、何かしらの理由や背景があり、その理由や背景を知ることで、変革の意味や価値を認識してもらうことができます。A-Aware(認識)を達成するためには、以下のようなポイントを抑える必要があります。変革のビジョンやゴールを明確にする変革の理由や背景を分かりやすく伝える変革のメリットやデメリットを具体的に示す変革の状況や進捗を定期的に報告する変革に関する質問や意見を受け付ける変革に関する情報や知識を提供するD-Desire(願望)D-Desire(願望)とは、変革に参加する意思や動機を持つことです。変革には、何かしらの努力や犠牲が伴います。変革に対する努力や犠牲を払うためには、変革に参加する意味や価値を感じる必要があります。そして、変革に参加する意味や価値を感じるためには、変革に対する自分の関係や役割を認識する必要があります。D-Desire(願望)を達成するためには、以下のようなポイントを抑える必要があります。変革のビジョンやゴールに共感する変革のメリットやデメリットを理解する変革の成功事例やベストプラクティスを紹介する変革に対する現場のの関係や役割を明確にする変革に対する現場の責任や権限を認めるK-Knowledge(知識)K-Knowledge(知識)とは、変革に必要な知識やスキルを習得することです。変革には、新しいやり方や方法が求められます。新しいやり方や方法を実践するためには、それに関する知識やスキルを学ぶ必要があります。K-Knowledge(知識)を達成するためには、以下のようなポイントを押さえる必要があります変革に必要な知識やスキルを明確に定義する変革に必要な知識やスキルを学びやすい環境を整える変革に必要な知識やスキルを学ぶことを良いことと認識させるA-Ability(能力)A-Ability(能力)とは、変革に対応する能力を発揮することです。変革には、新しいやり方や方法が求められます。新しいやり方や方法を実践するためには、それに関する知識やスキルを学ぶだけではなく、実際に行動する必要があります。A-Ability(能力)を達成するためには、以下のようなポイントを押さえる必要があります。変革に対応する行動や成果を定義する変革に対応する行動や企画を創出する変革に対応する行動や企画を実践する変革に対する行動や企画に参加してもらうことを現場に対してコンセンサスをとるR-Reinforce(強化)R-Reinforce(強化)とは、変革を拡大するために仕組みをつくることです。変革には、新しいやり方や方法が求められます。新しいやり方や方法を継続するためには、それに関する支援や仕組みを構築する必要があります。R-Reinforce(強化)を達成するためには、以下のようなポイントを抑える必要があります。変革の効果や成果を発表し、表彰する変革のを拡大するための動機づけを行う変革を拡大するための仕組みを作るADKARモデルと市民開発市民開発の必要性を認識させる最初の認識のステップでは、社内全体にDXの必要性を認識してもらう必要があります。そのためには下記の2つの要素が必要です。トップのコミットメントを示すまずはトップマネジメントが社員に向けて市民開発に対して「やっていくんだ」ということを社員に伝えることが必要です。これをせずに、情シス部門や、DX推進部門だけで事業部門への発信や協力を仰いでも、それが会社の方針であることは伝わりにくくなってしまいます。しっかりとトップマネジメントから直接、「市民開発に取り組むことを会社として決定した」ということを伝え、「社員全員の協力が必要である」ということを発信することが効果的です。社員の市民開発の必要性への腹落ち市民開発が会社としての方針であることを理解した上で、事業部門へ「市民開発が自社に必要である」ということを腹落ちさせる必要があります。ここでは特に、「市民開発や、変革を取り組まないとまずいよね」といった危機感の醸成と、「やってみてもいいかもね」と思えるような取り組むことのメリットを打ち出すことが必要です。このような市民開発のWhy、を理解できるようなEラーニングなどを活用するとよいでしょう。[参考リンク-「腹落ち感」を形成するセンスメイキング理論とは!?組織でDXを推進していくための文化の醸成に活用しよう!]願望を持てるような市民開発へのインセンティブ願望を持ってもらうために必要なもは、市民開発へのインセンティブです。認識のステップで、市民開発への参加の必要性を理解できたとしても、いきなり現業があるなかで、多くの方へ参加してもらうのは難しいでしょう。その際に必要なのがインセンティブです。たとえば、市民開発への一歩目として作成する社内アプリのアイデア大会を開き、アイデアが採用された社員に対して、表彰があったり、特別報酬が与えられるような仕組みがあげられます。しかし、組織風土によっては、報酬や賞与のような外的動機付けによってデモチベーションになってしまう場合もあるので、インセンティブとする内容は精査する必要があります。知識を得る環境を作る願望の次のステップの知識では、社員が市民開発に関わるための知識を習得できる環境を作ることです。ここで必要な環境は以下の2つです。Eラーニングまず、社員に対して学習ができるプラットフォームとして、Eラーニングを用意しましょう。せっかく参加したい!と願望を持ってくれても、参加するための知識がなければ意味がありません。参加するための知識を得られるようにする環境を作るためには、部門や部署によって、業務も働き方も違うため、時間・場所を問わずに学習ができる環境としてのEラーニングが適切でしょう。専門家への相談窓口を作る次は、社員から出てきた質問や、市民開発に向けた推進に助言をしてくれる相談窓口を用意しましょう。まだ市民開発やノーコードに関わる人材を採用するには多くの費用やリソースが必要なため、まずは専門人材を内製化するのではなく、外部に顧問という形で相談窓口を作ることがおすすめです。能力をつけるためのプロジェクトの実践知識の次のステップので能力では、インプットした知識を活用して、能力とするためのプロジェクトを実践することが必要です。プロジェクトの創出まずは実践のためのプロジェクトを創出する必要があります。このプロジェクトを創出する時は、「実現可能性が高い現場の業務改善のプロジェクト」にすることがおすすめです。また、創出の際には人材育成と組み合わせて、市民開発企画創出ワークショップとして行うことで、現場の方がどのように企画を作ればいいのかを学べるため、市民開発に一歩近づくこともできます。プロジェクトの実践次は、創出したプロジェクトを実践します。実践を通して成功とその効果を生み、成功を生み出すまでの過程で実践経験を積みます。この実践をしながら学習することをプロジェクトベースドラーニングといい、プロジェクトベースドラーニングは、身につけた知識の定着や活用に効果的で、市民開発やDXといったコンテキストには非常に相性の良い学習方法と言われています。[参考リンク-プロジェクトベースドラーニングとは!?DX人材育成やその研修に必要な概念を理解しよう!]動機づけと仕組みで変革を強化する能力の次のステップの強化では、プロジェクトの実践で生まれた結果をもとに、更なる変革が起こるような動機づけが必要です。強化のための動機づけ強化するために必要な要素1つ目は動機付けです。この動機付けは内的・外的動機づけを組織文化によって組み合わせながら構築することが必要です。たとえば、内的動機づけでは、オープンバッジ制度などが挙げられます。オープンバッジ制度とは、社内に対して自分がどんなスキルをもっているのか、だったり、どんな役割をもっているのか、というのを明文化するために、社員にたいしてバッジを与える制度のことです。自身が会社にとってどんな役割をもっていて、どんな貢献ができるかを明確化することで、内的動機づけを強化することができます。このような制度を人事評価や、報償制度に紐づけていくことで、外的動機づけにつなげることも可能です。強化のための仕組みづくり強化するために必要な要素2つ目は仕組みづくりです。必要な仕組みとしては、下記のようなものが挙げられます継続的に業務改善のアイデアや企画ができるような仕組みづくり野良アプリが乱立しないようなアプリ承認制度の仕組みづくり企画・開発・運用といった各フェーズを組織のどこが担うかといった組織の仕組みづくりこれらの仕組みが整うことで、内製化を実現することができます。まとめこの記事では、ADKARモデルの概要から、市民開発におけるADKARモデルの活用まで解説しました。ADKARモデルは組織のひとりひとりの変革に向けて必要なエッセンスがまとめられている概念です。ADKARモデルを活用して、ぜひ市民開発を成功に導いてください。