企業における人材育成は、組織の成長と直結する重要な課題です。しかし、多くの研修が形骸化してしまい、期待される成果を上げられないケースが少なくありません。研修の効果を最大化するには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。本記事では、研修の企画から実施、評価に至るまでのプロセスを体系的に管理する「ADDIEモデル」について紹介します。ADDIEモデルを活用することで、研修の質を根本から改善し、人材育成の成果を高めることが可能ですので、是非最後までお読みください。ADDIEモデルとは?ADDIEモデルの概要ADDIEモデルは、教育分野におけるシステマティックな設計と実施の枠組みを提供するフレームワークです。ビジネスの改善手法であるPDCAサイクルの原則を教育プロセスに適用し、より効果的で効率的な学習体験を実現することを目的としています。ADDIEは、Analysis(分析)、Design(設計)、Development(開発)、Implementation(実施)、*Evaluation(評価)*の各フェーズの頭文字を取って名付けられました。これらの段階を循環させることで、教育内容の継続的な改善と定着を図ります。教材の開発から実践、評価に至るまで、このモデルに沿ったアプローチは、教育プログラムの質を高め、学習者の成果を最大化するための重要な手法となっています。PDCAモデルとの違いPDCAモデルは、プロセスの改善や問題解決のために用いられる一般的なモデルですが、ADDIEモデルは教育や研修に特化したフレームワークです。また、PDCAは継続的な改善を目指すサイクルであるのに対し、ADDIEは教育プログラムの開発における一連のフェーズをサイクルとして回しながら、評価工程で得た結果を各工程へ反映させる点についてもPDCAと異なります。インストラクショナルデザインとの関係性インストラクショナルデザインは、教育という目に見えないプロセスを体系的に捉え、計画的に設計するアプローチです。教育プログラム全体の構想や教材開発において、どのように進めるべきかの手順を示すプロセスを「IDプロセス」と呼ばれています。ADDIEモデルは、このIDプロセスにおける代表的なフレームワークであり、教育の設計から評価に至るまでの一連の流れを整理したものです。教育者はADDIEモデルを通じて、教育内容の効果的な伝達と学習者の理解を深めるための明確な指針を得ることができます。[参考リンク-人材育成の効果を最大化するインストラクショナルデザインとは!?DX人材育成への活用や活用されるモデルについて徹底解説!]ADDIEモデルを構成する要素とステップA-Analysis(分析)最初のステップはAnalysis:分析です。研修プログラム構築の成功は、その基盤となるこの分析フェーズにかかっています。このフェーズでは、教育の目的や必要性を深く掘り下げ、現状の正確な理解をすることが目的となります。具体的には、現場から得られるデータや過去の研修結果に基づくアンケート結果を集約し、それらを詳細に分析します。ただし、数値データだけでなく、実際の業務に携わる人々の意見をヒアリングすることも同様に重要です。これにより、現場の実際のニーズに即した研修が設計できるようになります。分析フェーズを丁寧に行うことで、ADDIEモデル全体の効果を最大限に引き出すことができます。このフェーズで得られた推察が、研修プログラムの方向性と成果を左右するため、細心の注意を払って進める必要があります。D-Design(設計)2つ目のステップはDesign:設計です。教育プログラムの設計フェーズでは、分析フェーズで得られた推察を基に、教育の全体像を描きます。この段階では、単に教材を作成するのではなく、研修の最終目標を視野に入れた上で、教育内容の枠組みを構築します。全体像が明確になった後、研修の具体的な内容、対象者、評価方法、事前に必要な課題、実施の手法、そして外部講師の起用の有無など、細部にわたる計画を策定します。このプロセスを通じて、研修が目指す成果に向けて、効果的な教育プログラムを設計するための基礎が築かれます。教育設計は、研修の成功に不可欠なステップであり、目標達成に向けた戦略的なアプローチが求められるのです。D-Development(開発)3つ目のステップはDevelopment:開発です。研修プログラムの開発フェーズでは、設計された教育内容に基づいて、実施に必要な具体的なコンテンツや環境を整えます。この段階で行う作業には、研修で配布する資料や動画、ワークシートの作成です。さらに、研修の場となる会場の手配、必要に応じて講師の確保、eラーニングシステムの導入、必要な機材の準備など、研修環境の構築が求められます。また、実際にワークシートを試用したり、講師とのリハーサルを行ったりすることで、研修の質を事前に確認し、改善する機会を持ちます。この徹底した準備と事前チェックにより、研修内容はさらに洗練され、受講者にとってより効果的な学習体験が実現されるのです。I-Implementation(実行)4つ目のステップはImplementation:実行です。研修の実施フェーズでは、事前に策定された計画に従って教育プログラムを展開します。この段階での重要な作業は、研修の進行中に複数のスタッフが協力して、研修の良い点や改善が必要な点を観察・評価することです。客観的な視点からの情報収集は、次回の研修に向けた改善策を講じるために不可欠です。さらに、講師からのフィードバックを得ること、そして受講者自身から直接的な意見を収集するためのアンケートを実施することも、研修の質を高める上で効果的な手段となります。これらの取り組みにより、研修プログラムはより洗練され、次回以降の実施に向けての改善点が明確になります。E-Evaluation(評価)最後のステップはEvaluation:評価です。評価フェーズは、ADDIEモデルの最終段階であり、研修プログラムが設定した目標を達成しているか、今後の改善はどのようにすべきかを判断するための重要なプロセスです。このフェーズでは、研修内容に対する直接的な評価と、実務への応用がどの程度行われているかの二つの側面から評価を行います。研修内容の評価は、受講者の理解度を測るテストやアンケートを通じて直後に行われますが、実務への影響を評価するためには、実際の業務データを分析し、一定期間後にその成果を測定します。これらの評価を基に、ADDIEモデルの各フェーズを再度見直し、次回の研修プログラムの設計に反映させることで、教育の質を継続的に向上させていきます。この循環的なプロセスにより、教育プログラムは常に進化し、より効果的な学習経験を提供することが可能となるのです。ADDIEモデルで抑えるべきポイント教育で解決できる範囲なのかを明確にするADDIEモデルで抑えるべきポイント1つ目は教育で解決できる範囲なのかを明確にすることです。研修を設計する際に、目的を達成するために、どこまでが教育で解決できる問題なのかを明確にすることが重要です。例えば、DXや市民開発を目指した教育を設計しようとした場合、業務フローの可視化をしたり、アプリケーションを作成したりすることは、ワークショップなどのアクティブラーニングを用いることで実施できます。しかし、必要なデータベースや環境が整っていなかったり、現場の改革をするためのタブレットがなかったり、BIツールに入力するための現場データのセンシングの環境ができていなかったりする問題は教育では解決できません。そのため、教育によって改善が見込めない問題に対しては、他のアプローチを検討する必要があります。教育も目的を達成するための手段でしかありませんので、成し遂げたい目的に必要な項目や理想的な状態を明確に描き、教育で解決すべき点とそうでない点をしっかりと洗い出すことが重要です。どんな人材を育成すべきかをしっかりと定義するADDIEモデルで押さえるべきポイント2つ目はどんな人材を育成すべきかしっかりと定義することです。分析で得られた課題を解決するためには、どんな行動ができる人材が必要なのか、をしっかりと定義しないと、問題の解決はできません。市民開発に関する教育を例に出した場合、『アプリケーションを作れる人』というレベルの粒度では荒過ぎます。例えば、『業務プロセスを整理でき、RPAの特徴を理解した上で、どのようにフローを組み合わせて改善するべきかを企画できる人』レベルで必要な人材を定義して初めて、実施すべき教育内容が見えてきます。[参考リンク-ノーコード人材・市民開発者の育成方法とは!?学習の入門からノーコード研修までおすすめのやり方を徹底解説します!]評価するためのKPIを設定するADDIEモデルで抑えるべきポイント3つ目は、評価するためのKPIを設定することです。研修を評価する上で最も重要なのが、なにをもって評価をするかの評価基準を定めることです。この評価基準を何に設定するかで、ADDIEモデルで中心に据えられている評価の工程の成否を分けます。DXや市民開発であれば、できるだけ経営に対してどの程度のインパクトを与えたか。いわゆるROIの観点まで測定することがおすすめです。これはDXや市民開発の最終的な目的が、業務効率化や新規価値の創造であり、経営に対してインパクトを与えられたかどうかがそれを測る指標となるためです。その際に参考になるのが、フィリップスのROIモデルです。研修の効果をROIで見える化するためのフレームワークのため、ADDIEモデルと併用して活用することで、より教育の効果を最大化することができるでしょう。[参考リンク-人材育成の効果を測るためのフィリップスのROIモデルとは!?市民開発との親和性についても解説します!]まとめADDIEモデルは、教育や研修の効果を最大限に引き出すための強力なツールです。この概念を活用して、ぜひDX人材や市民開発者の育成を成功に導いてください。あなたのDX推進に幸あれ!