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ソフトウェア開発組織論の古典であるCMM/CMMIから、成熟度モデルの活用方法と、市民開発への適用を考える

はじめに:DXを勧めたい企業が陥るテクノロジー導入の裏側にある課題

「最新のノーコードツールを全社導入した。しかし、誰も使っていない」
「一部の若手が素晴らしいアプリを作ったが、退職した瞬間、『負の遺産』になった」
「ガバナンス不在のままツールが乱立し、情報システム部門が収拾に追われている」

DX推進が叫ばれる今、上記のような課題を多く聞くことが増えてきました。

しかし、これらの真の問題は、テクノロジーの欠如でも、ツールの機能不足でもありません。組織の仕組みづくりさえあれば、これらの問題は解決されるのです。

今日のテーマである「CMM(能力成熟度モデル)」は、本来ソフトウェア開発プロセスの成熟度を測るための古典的な指標です。
ゆえに、単なる「開発プロセスの教科書」や「監査のためのチェックリスト」として誤解されてしまうことも多々ありますが、
CMMをちゃんと読み解いていくと、組織がどのように「経験」を「資産」に変え、「属人性」を「組織能力」へと昇華させるかを解き明かす、極めて人間に寄り添った考え方であることがわかります。

そこで、今回はなぜ、DX(デジタルトランスフォーメーション)は足踏みするのかを、CMMというレンズを通して、組織変革の深層に潜む力学を解き明かしていきましょう。

第1章:CMM(能力成熟度モデル)の深層と哲学

まず、CMM(Capability Maturity Model)について、その表層的な定義を超えて、歴史的背景と組織論的な意味合いを深く掘り下げてみましょう。

CMMは1980年代後半、米国カーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所(SEI)で、米国防総省の依頼により開発されました。その本来の目的は、予算超過や納期遅延を繰り返すソフトウェア開発業者を客観的に評価し、能力のあるベンダーを選定することでした。しかし、その根底には、現代のあらゆるビジネスに通じる重要な哲学があります。

「システムの質は、それを開発・維持するために使われるプロセスの質に大きく依存する」

素晴らしい個人の才能(ヒーロー)がいても、プロセスが未熟であれば、成功は偶然の産物に過ぎず、繰り返すことはできません。逆に、プロセスが成熟していれば、凡人たちが集まっても非凡な成果を安定して生み出すことができる。これがCMMの本質です。

CMMが定義する5つの成熟度レベルを、単なるラベルではなく「組織の状態像」として詳述します。

レベル1:初期(Initial)~英雄と混沌~

  • 状態: プロセスは予測不能で、場当たり的です。「とりあえず作ってみよう」が合言葉であり、成功は、個人の並外れた才能や残業、献身的な努力(ヒロイックな行動)に完全に依存します。
  • 組織の空気: 常に火消し(トラブル対応)に追われています。計画はあってないようなもので、納期が近づくと品質テストや現場への導入プロセスが省略されます。
  • 特徴: 「人」が変わると、成果物の品質もプロセスもすべてリセットされます。これが負の遺産の再生産であり、組織としての記憶喪失状態といっても過言ではありません。

レベル2:管理された(Managed)~規律の芽生え~

  • 状態: 過去の類似プロジェクトの経験に基づいて、基本的な計画と管理が行われます。要件管理、進捗管理などの基本的な規律が導入され、「以前やったこと」を再現性をもって繰り返せるようになります。
  • 組織の空気: プロジェクト単位では秩序がありますが、組織全体としてはまだバラバラです。隣の部署が何をしているかは知りません。
  • 特徴: 「約束を守る」文化が生まれ始めますが、まだプロセスはプロジェクトごとに属人的です。

レベル3:定義された(Defined)~組織の標準化~

  • 状態: 管理プロセスとエンジニアリングプロセスの両方が文書化され、標準化され、組織全体の標準プロセスとして統合されています。
  • 組織の空気: 組織としての「我々のやり方」が存在します。新人教育も標準プロセスに基づいて行われ、ベストプラクティスが組織の資産として共有されます。
  • 特徴: 属人性が排除され、誰が担当しても一定の品質が担保されます。ここが「自走する組織」の入り口です。

レベル4:定量的に管理された(Quantitatively Managed)~データの支配~

  • 状態: プロセスのパフォーマンスと製品品質について、定量的な目標が設定され、統計的な手法を用いて測定・制御されています。
  • 組織の空気: 「なんとなく調子が悪い」といった抽象的な会話ではなく、「プロセスの逸脱が発生している」といった具体的な会話がなされます。
  • 特徴: 未来のパフォーマンスをデータに基づいて予測可能です。

レベル5:最適化している(Optimizing)~自律的進化~

  • 状態: 定量的なフィードバックと、革新的なアイデアや技術のパイロット導入により、プロセスが継続的に改善されています。
  • 組織の空気: 現状維持は後退とみなされます。変化を恐れず、常に「より良く」を追求する文化が根付いています。
  • 特徴: 欠陥の予防に重点が置かれ、組織全体が学習し続けています。

第2章:CMM適用における「パラドックス」と組織への示唆

CMMは強力なフレームワークですが、これを現代の「市民開発」や「DX」の文脈にそのまま適用しようとすると、必ずと言っていいほど深刻な拒絶反応が起きます。ここに、組織変革の難しさがあります。

1. 「重厚長大」対「アジリティ」の矛盾

多くの日本企業が陥る罠は、レベル1(カオス)から脱却しようとして、いきなりレベル3(標準化)のガチガチのルールを適用しようとすることです。
「申請書を出さなければアプリを作ってはいけない」「ROIが明確でないと着手できない」。
CMMは元来、大規模なシステム開発のために作られました。それをそのまま、現場主導の軽微な改善活動(市民開発)に適用すれば、最大の武器である「俊敏性(アジリティ)」と「自発性」が失われます。
現場は「管理されるならやらない」と沈黙し、変革はそこでストップしてしまいます。

2. 「プロセス」を「官僚主義」と履き違える

CMMの「管理された(Managed)」や「定義された(Defined)」という言葉を、多くの組織は「データの入力を増やすだけじゃないか」と誤解します。
真のCMMレベル3は、分厚いマニュアルを作ることではありません。「思考のプロセス」を共有することです。
なぜその決定をしたのか、どういう手順で解決したのか。その「知恵」が流通している状態こそが定義された状態です。
ただ形式的な承認フローを増やすことは、成熟ではなく形骸化と「組織的な硬直」です。

3. 「制度化」の本当の意味

CMMにおける重要な概念に「制度化(Institutionalization)」があります。これは、そのプロセスが「組織の文化の一部として深く根付いていること」を意味します。
予算がカットされても、担当者が変わっても、その活動が継続されるなら、それは制度化されています。
逆に、トップの号令が止まった瞬間に活動が止まるなら、それはまだ制度化されていません。
組織変革のゴールは、一時的な「プロジェクト」の成功ではなく、この「制度化」にあります。
市民開発という言葉自体が使われなくなり、息をするように業務改善が行われる状態。それこそが、私たちが目指す「レベル5」の世界観です。

第3章:ふえん式 5段階の成熟度モデル ~三位一体のバランスが生む進化~

CMMの厳格な概念を、現代の市民開発に適応させるために私たちが開発したのが「ふえん式 5段階の成熟度モデル」です。 このモデルの根幹にある思想は、「市民開発の成功は、ヒト・ツール・仕組みの3要素のバランス(確率)によって決まる」という点です。

私たちは市民開発を「組織のサポート体制の中で、業務プロセスを理解する非IT部門の従業員が、ノーコードツールを活用して、アプリケーションを開発・運用する取り組み」と定義しています。 単に「現場がアプリを作る」だけでは不十分です。

  • ヒト(多様な役割とスキル)
  • ツール(適切なテクノロジー)
  • 仕組み(ガバナンスとサポート)

この3つが三位一体となって初めて、組織は次のステージへ進むことができます。どれか一つが欠けても、プロジェクトは崩壊します。
我々の考える成熟度モデルとは、この「3つのバランスを段階的に高度化させていくロードマップ」に他なりません。

第1段階:発見(Discovery)~バランスの欠如と模索~

  • 状態: 組織としての公式な動きは皆無です。しかし、水面下では数名の好奇心旺盛な個人(イノベーター)が、Excelやマクロ、あるいは個人的に見つけたツールで業務改善を試みています。
  • 3要素のバランス診断:
    • ヒト(突出): 特定の「ITが得意な人」に依存。得意な人に負荷が集中し、疲弊します。
    • ツール(混沌): 統一されておらず、シャドーITが散在。古いマクロが「負の遺産」化しています。
    • 仕組み(欠如): サポート体制もルールもありません。
  • CMMとの対比【レベル1:初期】: まさにカオスです。しかし、ここには「現状を変えたい」という熱量があります。
  • 必要なアクション: まずは市民開発の定義と、これら3要素が必要であることを「発見(理解)」することです。そして、孤軍奮闘する「ヒト」を見つけ出し、彼らの活動を妨げない環境を作ることです。

第2段階:認知(Awareness)~実証と初期のバランス~

  • 状態: 小さな成功事例が生まれ、組織内で認知され始めます。「これなら自分たちの課題も解決できるかも」という期待感が生まれますが、同時にリスクへの懸念も浮上します。
  • 3要素のバランス診断:
    • ヒト: イノベーターだけでなく、フォロワー(追随者)が現れます。
    • ツール: ノーコードツールの試験導入や選定が始まります。
    • 仕組み: まだ非公式ですが、「実現可能性チェックリスト」や「ビジネス観点チェックリスト」を用いて、「これは市民開発でやるべきか?」を判断する初期的なプロセスが必要になります。
  • ふえんの哲学: ここで「仕組み」が全くないと、ツールだけが先行し、無秩序なアプリが乱立します。逆に「仕組み」が厳しすぎると、芽が摘まれます。 「小さな成功体験」を創出しつつ、最低限のルール(判断ガイド)を設けることで、ヒトとツールのバランスを保つことがこの段階の要諦です。

第3段階:試行(Trial)~公式化と協力体制~

  • 状態: 経営層からの正式承認を得て、パイロットプロジェクトが走ります。IT部門との対立構造ではなく、「協力体制」が築かれ始めます。
  • 3要素のバランス診断:
    • ヒト: 「ITアドバイザー」のような専門的サポーターが登場し、市民開発者を技術面で支えます。コミュニティが形成され始めます。
    • ツール: 部署横断的な活用が始まり、より高度な機能(拡張機能など)への関心が高まります。
    • 仕組み: 「技術観点チェックリスト」を用いて、リスクに応じた開発ルート(自分たちで作るか、IT部門に任せるか)を振り分ける公式な運用が始まります。
  • CMMとの対比【レベル2:管理された】: ここで初めて、組織的な「再現性」が生まれます。誰が作ってもある程度の品質が保てるよう、サポート体制という「仕組み」が「ヒト」を支える構造が出来上がります。

第4段階:確立(Establishment)~標準化と拡大~

  • 状態: 市民開発が「一部の好き者がやること」から「標準的な選択肢」として確立されます。
  • 3要素のバランス診断:
    • ヒト: 「市民開発推進室」が設置され、各部門に「課題発見者」が配置されます。役割分担が明確化します。
    • ツール: アプリケーション管理基盤が整備され、他システムとの連携も標準化されます。
    • 仕組み: 育成・認定制度が運用され、品質管理のプロセスが全社展開されます。
  • CMMとの対比【レベル3:定義された】: ヒト・ツール・仕組みの3要素が高い次元で均衡しています。特定のヒーローがいなくても、仕組み(推進室や標準プロセス)が機能することで、組織全体として成果を出し続けられる状態です。

第5段階:浸透(Permeation)~文化への昇華~

  • 状態: もはや「市民開発」という言葉すら使われません。息をするように業務改善が行われ、イノベーションが日常化しています。
  • 3要素のバランス診断:
    • ヒト: 「プロフェッショナル人材」が育ち、キャリアパスとして確立されています。社外コミュニティとも連携し、知見を還流させています。
    • ツール: AIや自動化技術が自然に取り込まれ、常に最新の状態に最適化されています。
    • 仕組み: 事業KPIと連動した評価、部門を超えた共創が、管理されずとも自律的に回っています。
  • 到達の鍵: この段階では、3要素のバランスが「組織文化(カルチャー)」として完全に定着(制度化)しています。「言われたからやる」のではなく、「自律的にバランスを取る」ことができる組織。これこそがCMMレベル5の境地です。

第4章:自走する組織への処方箋 ~「小さな成功」が「プロセス」を作る~

CMMという巨大な概念を前にすると、私たちはつい「完璧な計画」や「詳細なマニュアル」を作りたくなります。

しかし、組織変革において、そのような重厚長大な視点での行動はしばしば逆効果をもたらしてしまいがちです。

成熟度モデルの階段を上るためには、上からの命令でも、分厚い計画書も必要ありません。
現場で生まれる「小さな成功体験」こそが、市民開発を突き動かすエネルギー源となるのです。

分析麻痺への解毒剤

多くの企業が第2段階(認知)から第3段階(試行)への「死の谷」で立ち止まります。

「ガバナンスはどうする」「教育コストのROIは」といった議論がループし、分析麻痺に陥るのです。
CMM的に言えば、「プロセスが定義できていないから、着手できない」というパラドックスが生まれるのです。

しかし、最初から完璧なプロセスなど存在しません。 この閉塞感を打破するのは、「たった30分の作業が1分になった」という、否定しようのない事実(成功体験)です。

「本当に楽になった」「ありがとう」。 この現場の生の声こそが、周りにいる市民開発へ懐疑的な人々を振り向かせ、経営層を動かし、結果として「この成功を全社に広げるためのルール(プロセス)を作ろう」という機運を生み出します。

プロセスが先にあって成功が生まれるのではありません。小さな成功が、必要なプロセスを呼び寄せるのです。

変化を「日常」にするOS

CMMが目指す究極の姿は、変化が特別なイベントではなく、日常の営みとなることです。 ふえん式フレームワークが目指すのも、まさにその点にあります。

  • 安心して失敗できる「サンドボックス(砂場)」
  • 互いに称賛し合う「サポーティブなコミュニティ」
  • 挑戦が報われる「成果の可視化」

これらを通じて、組織のOSをスパイラルアップで書き換えていく。

成熟度モデルのレベルを上げることは、管理を厳しくすることではありません。組織の「自由度」と「適応力」を高めることです。

レベルが高い組織ほど、現場は裁量を持ち、生き生きと働いています。なぜなら、共通のプロセスという信頼の基盤があるからこそ、大胆な挑戦が可能になるからです。

そしてそれらが実現されると、組織としてのアジリティやレジリエンスが向上します。

結び

CMMは、組織が成熟していく過程を示した優れた地図です。しかし、地図を持っているだけでは山は登れません。その地図を歩くのは、感情を持った「ヒト」です。

テクノロジーは日々進化し、ツールは変わり続けます。しかし、「変化に対応し、自らを変革し続ける組織能力(OS)」さえインストールされていれば、どんな時代が来ても恐れることはありません。

真のプロダクトは、導入されたアプリやシステムではありません。 変革され、自走するあなたの組織そのものです。

私たち「ふえん」は、CMMの考えを素地としてふえん式市民開発をフレームワークという地図を片手に、泥臭い現場の現実と向き合いながら、その長い旅路を伴走するパートナーでありたいと考えています。

ぜひ市民開発に関してご興味をお持ちいただけた方は、問い合わせ欄から面談のご要望をお送りください。

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